「東極」の磁場 in WAKASA 2023

2023.7.16(SUN.)-9.16(SUN) 熊川宿若狭美術館

「東極」の磁場 in WAKASA 2023 開催のごあいさつ

地球は北極と南極を軸にして東方向に自転する。北極に立てれば、四方八方全部南方になり、南極からの磁気も北極にたどり着いた途端に極性を逆転して北極 から南に発散していく。人類はとおい昔、南半球のアフリカから地球の 自転に沿って螺旋状に北へ東へと移動し、繁衍してきた。その文明もエジプト から一方はギリシャ、ローマ、西ヨーロッパ、イギリス、北欧へ、他方はペルシ ャ、インド、中国、朝鮮半島、日本へと、広がって行き、それぞれの極地に蓄積された。不思議なことに文明にも、地球の南北極に似たような西極と東極があるようだ。
「東極」は日本、朝鮮半島を含む地域が、中国、アジア、ユーラシア、ヨーロッパ等の西側の世界から次々と押し寄せてきた文化を、混在させながら融合し変容させてきた極地の文化圏であること、そしてその極性を反転させて西側世界に向けて発信してきたこと等の共通の認識はあるものの、日本ではまだ概念としては定着していない耳慣れない言葉である。しかし、東極文化圏の日本は、広く世界のさまざまな分野の刺激と影響を大きく受けながら、それらを柔軟に受容し、独自の新たな発信の主体となって行く歴史を持っている。
 発表の場であるここ若狭は古代より大陸にむかって開かれた玄関口であり、その地に創設された熊川宿若狭美術館が、歴史的にも発表の場として相応しい場所であるということで本展は実現した。出品者の五人は、何れも戦後現代美術を牽引した斎藤義重と何らかの形で関わりを持ち、影響を受けている。その斎藤が大きな刺激と影響を受けたロシア未来派のダビッド・ヴリリュークがヴィクトール・パリモフとともに上陸したのが、同じ若狭湾の港・敦賀である。16 歳の斎藤がその作品や制作風景に京橋で出会ったことが、その後の斎藤の表現活動に大きな影響を与えたことは良く知られている。
今回の 「“ 東極」の磁場 “という発信の場を契機に、新たな概念として形成していくことが必要である。そこで展開される制作行為が客観的視点に立った複眼的思考による発見と挑戦を繰り返すことで、その極を逆転し発信を可能とする大きな力となることであろう。「東極展」に求められるものは、そのような柔軟で持続性のある発信そのものである。

熊川宿若狭美術館