
臨場展によせて
「臨場・ボードワンヴェール&ダフネビイガヌワナク・岩尾恵都子・小宮太郎・江戸雄飛・小林雅代・長谷光城・野田訓生展」を開催します。
先立って行われた「臨場=プロセス公開とコミュニケーション」では、7名のアーティストが、熊川宿若狭美術館や熊川宿内の古民家に10日間滞在し、観客とコミュニケーションを図りながら、新作の構想から制作、完成までを公開しました。また1名の評論家が7名と伴走しながら、批評の観点からの活動を行いました。
本展は、この10日間の成果としての完成作品を発表し、あわせて各作家の過去作品、制作プロセスの記録写真を展示するものです。
<臨場〉は、「その場所にのぞむこと。臨席。(広辞苑)」を意味します。この語は、本プロジェクトの監修者でもある長谷光城の発案によるものです。そこには、近年盛んなアーティスト・イン・レジデンスを超えて、より生々しくダイレクトに美術のど真ん中へ入り込んで欲しいという強い願いが込められています。
<臨場〉は、観客へのメッセージであるとともに、参加するアーティストへも向けられています。7名のアーティストと伴走者である批評家は、それぞれに、この〈臨場〉へのアプローチを試みています。
ボードワンヴェールとダフネビイガヌワナクは、近隣の住民とも交流しながら、熊川宿の古民家において、瞽女(ごぜ)を探求する演劇プロジェクトに挑んでいます。
岩尾恵都子は、都会とは異なる、熊川宿の山々の迫る風景との新鮮な出会いを、自身のユニークな絵画スタイルへと接続し、より自由な領域への軽やかな旅を試みます。
小宮太郎は、与七会場にひとり身を置き、観客に体験制作を促しながら、自身の創作について語りつつ、精緻なコンセプトに基づくインスタレーションの構築にいそしみます。
江戸雄飛は、毎日2時間の限られた制作スケジュールの中、驚くべき集中力が爆発する短時間のドローイング行為を繰り返しながら、強度に満ちた絵画制作に没頭します。
小林雅代は、身近な天然素材を用いてーから糸を染めあげ、生み出された”若狭の色”を纏う糸を、里山から切り出された木々と組み合わせるインスタレーションへ展開します。
長谷光城は、地域社会と向き合う視点を、自身の晩年を見つめる非常にパーソナルなまなざしと融合させながら、未来への希望を開く独自の白い構造体へと昇華させます。
野田訓生は、会場を行き来して写真撮影を行いながら、時には作家に質問し語り合い、つかず離れずの距離感をもって制作の観察と記録を続けていきます。
それぞれの作品は、10日間の特異な<臨場〉というプロセスの結果であると同時に、自立し独立した表現でもあります。目の前の作品との対話を通じて、美術の本質に近づく=<臨場〉いただければ幸いです。 野田訓生 金津創作の森美術館館長




長谷光城
1943年生まれ。旧満州国出身、福井県在住。多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻斉藤義重教室卒業、熊川宿若狭美術館長。第5回北美大賞。第16回現代日本美術展大賞受賞。個展開催36回、グループ展多数。臨場VOL1、2、3に出展。福井県文化賞受賞、瑞宝小綬章受章。
長谷光城は、若狭町に在住する作家です。長谷にとっての〈臨場〉が、創作の拠点である、この地を主題とすることは、必然であるといってよいでしょう。しかし昨年に続き、人口動態の変化や山々の環境崩壊といった地域の課題を直接にテーマとした制作からは離れ、自身の晩年を見つめるパーソナルな領域へと踏み込んでいます。今回の<臨場>では「点・線・面」がもつ、それぞれが造形の最も基本的な要素でありながら、また三段階の連関した展開でもあるという性質に着目し、自身の”制作”と”生”を問い直す仕事に挑みます。無垢の木板から「点・線・「面」に対応した3種のパーツを切り出し、見事な造形感覚を発揮しながら、軽妙と厳粛をあわせ持つ四つの構造体が組み上げられていきます。長谷が、新しいものを生み出す色と語る”白色”で塗られたパーツは、塗装後に縁がわずかに削られ、木の素材を知らせるとともに、構造物の単純な一体感を拒み、その仮構性が強調されます。白から覗く木は、微かな肉声のようにして、作品を”死”と”再生”のあわいへと開きます。(野田訓生)



岩尾恵都子
1968年生まれ。東京都出身、東京都在住。多摩美術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、同大学院美術研究科修了。グループ展、個展多数開催。「VOCA展2000:現代美術の展望-新しい平面の作家たち」でVOCA賞を受賞。2015年「クインテットII-五つ星の作家たち」東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館に出品。
岩尾恵都子は、具象でも抽象でもない、浮遊するような風景を描く画家です。熊川宿の風景に取材したスケッチをもとに、’蔵”の輪郭線を慎重に画面に写すことから〈臨場>を開始しました。形の微妙な歪みが、大切に扱われます。岩尾は、歪みこそが見る者の位置を定位するのだと語ります。徐々に鮮やかな色彩の小さな円が登場し、倍率を切り替えるように無数の小さな点や大きな円が加わります。特徴的なのは、”蔵”や”山の輪郭”と背景との境界です。小さな昆虫が集まったような、にじみのような、見たことのない表情が現れます。どこまでも拡大を続けるフラクタル図形を思わせるかもしれません。それらは、描写的でもなければ装飾的でもありません。岩尾のダイナミックな運動感覚と触覚がともなっているのだと言えそうです。時間があれば風景の中へ散歩に出かける岩尾は、対象に身体で直接触れるようにして描く特異な画家なのかもしれません。絵画の
余白とは異質な隙間には、光や風が満ち、そこで見る者の感覚は軽やかに遊びます。(野田訓生)

小林雅代
1985年生まれ。兵庫県出身、福井県在住。京都造形芸術大学美術工芸学科陶芸コース卒業、2024年ふくいアートアタック事業で個展開催(銀座・ギャラリー暁)、新世紀展(東京都美術館/招待作家として出展)、東極の磁場inWAKASA2025、2026、臨場VOL2、3に出展。
小林雅代は、近年、既製の色糸とミシンを用いて様々な素材に縫いを重ねる仕事を展開してきました。それらは、スタイルの完成への兆しを感受させるものでしたが、直近の仕事では、過去のエッセンスを継承しつつも、自らのスタイルをアップデートするような挑戦が試みられています。今回の<臨場〉では、身近な天然素材を用いてーから糸を染めあげる作業から制作が開始されます。クリスギ、ヒノキ、ウメ、クズから抽出された液体から、その多様な色合いのそれぞれを糸に移し、苦労の多い手作業によっていくつもの糸束が生み出されます。熊川宿の街道に面した屋外での作業は、自然と年配の女性たちの目を引き、楽しい対話もはずみます。”若狭の色”を纏った糸は、里山から切り出された5本の木々へと丁寧に巻き取られて、これらを組み合わせる空間的インスタレーションへ展開します。天然の色を自然へと還すという仕草によって、これまでの糸で直接縫い合わせる仕事とは異なる、緩やかな”関係”が静かに立ち現れます。(野田訓生)




江戸雄飛
1997年生まれ。福井県出身、福井県在住。「きらりアート展」で準大賞2回、大賞2回を受賞し熊川宿若狭美術館で個展を開催。2021年にNHKEテレビ「noartnolife」で国内外に紹介。2023年には福井県若手美術家育成事業で個展を開催(銀座・ギャラリー暁)。その後、「きらりアート展」で特別賞4回を受賞。新潟県、富山県のグループ展に招待出品。
江戸雄飛は、具象イメージを排した強度に満ちたドローイングや絵画を制作するアーティストです。その作品は文字を記すことから開始されます。当日の日付けが記されることも多いようですが、最近は漢字の部首がお気に入りとのこと。ほかにも、気になるテレビ番組のタイトルやアナウンサーなど、ネット検索で入手した様々な文字列が、クリアファイルに大切にストックされています。文字は幾重にも重ねられるうちに、勢いをもった描画へと切り替わり大胆に画面を埋めていきます。今回の<臨場>では、毎日2時間の限られた制作スケジュールの中、驚異的な集中力が爆発する短時間のドローイングや描画を繰り返しながら、制作に没頭します。そこには一瞬の迷いも中断もなく、それでいて常に画面の全体像が確実に把握されているようです。制作の姿は、さながらボクシングの試合のようです。ラウンドの後には必ずタブレットを取り出して写真を撮り、画面を確認します。そして毎回「キレイ!」との声が美術館に響きます。(野田訓生)






















































































